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- 『21世紀・日本再生論』(2015・12)-27 日本経済の構造は激変した‐Ⅱ
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- 『21世紀・日本再生論』(2015・12)-24 人口減少社会という新しい時代の中で
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『21世紀・日本再生論』(2015・12)-26 日本経済の構造は激変した
『21世紀・日本再生論』(2015・12)-26
日本経済の構造は激変した
格差の固定化
この20年間に日本経済の構造は激変しました。経済的格差が固定化しつつあります。現状を端的に言えば、「大手企業の数字は良くなっているが、中小企業は厳しい状況にある」のです。また、地域的には、「東京の1人勝ち」的状況にあります。それは、“卵かにわとりか”の議論ではありますが、結果としては、日本国内で大企業の本社の集積が圧倒的に東京に集中しているので、“東京が良い”現状があるのです。大手企業の集積度合いが高い地域は順調で、低くなればなるほど厳しい経済状況にあるのです。
平成25年以降の株価の上昇によって、景気の回復が期待されてきましたが、大手と中小の格差は解消せず、景気回復が期待外れになりつつあります。世論調査でも、「景気回復を実感している」と答えた人の割合は20~30%、「実感していない」「分からない」が70~80%です。これは、大手企業と中小企業の就業者割合とおおむね合致します。つまり、“大手は順調、中小は厳しい”というのが現在の日本経済の実体です。
政府は、まだ大手の流れが中小に波及していないので、もっと大手の業績を回復させようとしているように見えます。そうすれば、日本経済が復活すると考えているようです。本当にそうでしょうか?日本の経済構造は大きく変わったのです。大手がリードして、中小に波及していくという姿は、かつての日本には見られましたが、この20年の間に、経済の構造は大きく変化し、大手の業績がそのまま中小に波及する度合いが著しく減少したのです。
政府は、大手企業の業績回復がまだまだ十分でないので中小企業を中心とする日本全体の経済回復につながっていないと考えており、もっと大手企業の業績回復を後押しして全体に波及させようとしています。しかし、実態は、大手企業のみがさらに回復し、中小企業は取り残され、経済的格差がさらに拡大しているのです。
私は、大手企業の業績回復がけしからんと言っているのではありません。大手企業は、日本経済の“顔”です。しかし、企業数・就業者数で言えば少数派です。一方、中小企業は、日本経済の“足腰”であり、多数派です。“顔”である大手企業が、世界の中で競争力を持っていかねばならないのと同時に、多数派であり“足腰”である中小企業が元気にならなければなりません。中・長期的には、多数派が元気でなくなれば、経済の最大構成部分である国内消費が減少し、経済がおかしくなっていくのです。
かつては、日本の経済構造は、下請けを中心とするピラミッド構造があり、大手と中小が共存共栄する体質がありました。また、大手と中小がうまく棲み分けをして、大手企業の領域と中小企業の領域がうまく調整されていたのです。それゆえ、大手企業が日本経済を引っ張り、その流れに全体が付いていくという構造が色濃くあったのです。しかし、1990年代から、急速に進展したグローバル経済の大きな流れの中で、その経済構造が崩壊しました。大手企業の生産現場の海外展開は今や当たり前の経営戦略なのです。
生産現場の海外展開は、①新興国・発展途上国への海外展開、②先進国への海外展開、に分けられます。①は、言うまでもなく、安い人件費を求めてのものです。②は、製品の輸出から現地生産への転換を目指してのものです。こういった行動は、主に、グローバル競争に勝ち抜いていくためのコストダウン、為替変動等の経済リスクの極小化を目指して行われました。その結果、日本国内の経済ピラミッドは大きく変わったのです。
国内の下請け・孫請け企業は、海外の人件費が安い企業との競争を親会社から迫られます。また、円安による原材料の高騰は、その商品価格には転嫁されることなく、下請け・孫請け企業が吸収しなければならない。さもなければ、人件費が安い海外企業に仕事を取られてしまうからです。
また、現地生産の進展によって、進出した企業は、そのほとんどの納入会社を現地で調達するようになりました。そうなると、中小企業の対応策は、大手と同じように海外進出するしかないのです。
この現実を否定しても仕方がありません。それは、大きな時代の流れでもあります。しかし、その現実を踏まえての政策立案が重要なのです。かつての大手が全体を牽引する日本経済という古い発想のままだと、大手企業と中小企業の格差が拡大するだけではないでしょうか。
さらに、情報通信技術の発展によって、事務作業、特に単純事務作業が驚くほど効率化され、かつては多くの人で行っていた事務作業を、数人がパソコンを使って実行できるようになりました。その結果、大企業は、かつては自ら行うよりも中小企業に任せる方が効率的であるとして手を出さなかった領域にまで進出するようになりました。手間隙かかる事務作業のコストが大幅に低下したからです。それによって、小回りの効く中小企業はどんどん片隅に追いやられていくことになりました。しかも、ICTは、技術進歩のスピードが速い分野でもあり、そのスピードについていくべく機器・プログラムの導入などは資本力によって大きく左右されます。なおさら格差が拡大したのです。 建設業界、金融業界のみならず、あらゆる産業において、そういった静かな、大きな流れが、経済的格差を固定化させる方向に向いています。
中小企業の振興策は「地域主権」で
大手と中小の棲み分け・協力関係が、競合関係に変化しました。ゆえに、これまでの発想から脱却した中小企業対策を強く推進しなければなりません。 しかし、中小企業と一口に言っても、その数はとてつもなく多く、多種多様であり、まさに千差万別です。それゆえに、政府の施策もなかなか難しいものとなります。結果として、靴の裏を掻くような効果の薄い施策になってしまいます。政府の限界です。さらに、中小企業には地場産業に根ざしたものも多く、それぞれの地域産業の影響を直接的に受けるのです。つまり、中小企業対策は、それぞれの地域で、それぞれの自治体が、それぞれの地域の実態にあわせて行わなければなりません。まさに「地域主権」です。つまり、政府の経済対策は大企業向けであり、地方自治体の経済政策が中小企業向けなのです。中小企業対策の王道は、急がば回れで、「地域主権の実現」なのです。
国家が、発展途上の段階で、経済全体の底上げが目的であった時代、つまり、大手企業が全体を牽引し、中小企業もそれについていけばよかった時代には、最良の中小企業政策とは、景気拡大そのものでした。中小企業政策は、融資政策を中心に行えば大体がこと足りたのかもしれません。しかし、今や、そういった大雑把な施策ではなく、きめの細かい施策が求められています。その段階において、もはや中央政府がきめの細かい中小企業政策を実行することは不可能に近いのです。きめの細かい施策を行うためのポイントは、“施策の対象となる企業(人)の顔が見える”ことだと思っています。だとすれば、全国には、北は北海道から南は沖縄まで、数え切れない企業が存在するので、政府に、それぞれの顔が見えることはあり得ないのです。独自の技術・商品・サービスを提供する中小企業をピンポイントで認識することはできますが、それは全体のごくごく一握りの中小企業です。それゆえ、政府にとって、顔の見える企業とは、おのずと大企業にならざるをえません。政府がヒアリングを行い、意見を聞くことができる企業は、数に限りがあるのです。政府に膨大な人員を配置してヒアリングを行えば可能かもしれませんが、行政改革を進めていかければならない時代において、それは無理筋の話です。政府の人員にも限りがあるのです。
かつて、私は、国会で次のような質問をしました。経済関係の法案審議の時でした。
「この法案は、多くの企業に様々な影響を与えます。それゆえに、法案作成の過程で企業の声を聞いてきたのですか?」
政府の答弁は当然のこととして、「聞いてきました」との答えでした。私がさらに、
「どのような方々と話をしてきたのか?」
と聞きましたら、
「経団連と数回にわたり協議をしてきました。」
との答えでした。私は、
「経団連は、大企業の集合組織です。それゆえ、大企業の声を聞いてきたことは分かりましたが、圧倒的多数の企業は中小企業であることを忘れないでいただきたい。」
と申し上げたのです。
私は、政府を一方的に避難するつもりはありません。実際、私も長らく国会で活動してきましたが、時間的な制約の中で、いろんな人から意見を聞くにも限界があり、首都である東京の、しかも顔の見える大企業の声しか聞くことができないのも現実なのです。
一方で、地方自治体においては、逆に、中小企業こそ顔の見える企業なのです。地縁・血縁・幼馴染等など、それこそ自治体にとっては馴染のある人たちです。政府にとっては、顔の見える企業は大企業であり、地方自治体にとっては、中小企業なのです。政府の経済政策は大企業向けであり、地方自治体の経済政策が中小企業向けであるというのは、こういうことです。
話をもとに戻します。それぞれの地域には、それぞれの地域の特徴があります。それぞれの産業構造があります。温泉町にとっては、最大の経済政策は、観光客の誘致なのです。つまり、圧倒的多数の中小企業は、“地域とともに生きている”のです。それゆえ、それぞれの地域の活性化が最大の中小企業政策となるのです。「地域主権の実現」によって、産業政策の権限が地方自治体に任され、その地域の実態に合った産業政策を、そして地域活性化の施策を行うことが“急がば廻れ”で最も重要になると確信しています。