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私の主張:日々の気づきや、アイデアなどを政治・経済にかかわらず樽床伸二の考えを綴って参ります。

「平成30年度国家予算」を考える②
「平成30年度国家予算」を考える①
【緊急対談】vs村井嘉浩(宮城県知事)
「省エネ大国・日本」を目指して!
「格差の拡大」は、国を滅ぼす!
~「働き方改革」から20年後を展望する~
『21世紀・日本再生論』(2015・12)-36 政権交代と結果責任
『21世紀・日本再生論』(2015・12)-35 世代交代とは
『21世紀・日本再生論』(2015・12)-34 保守とは?
『21世紀・日本再生論』(2015・12)-33 消費税を、「年金・医療税」に!‐Ⅱ
『21世紀・日本再生論』(2015・12)-32 消費税を、「年金・医療税」に!
『21世紀・日本再生論』(2015・12)-31 憲法改正は加憲方式で
『21世紀・日本再生論』(2015・12)-30 地球温暖化問題は、未来への責任
『21世紀・日本再生論』(2015・12)-29 新時代のエネルギー戦略
『21世紀・日本再生論』(2015・12)-28 日本経済の構造は激変した‐Ⅲ
『21世紀・日本再生論』(2015・12)-27 日本経済の構造は激変した‐Ⅱ
『21世紀・日本再生論』(2015・12)-26 日本経済の構造は激変した
『21世紀・日本再生論』(2015・12)-25 人口減少社会という新しい時代の中Ⅱ
『21世紀・日本再生論』(2015・12)-24 人口減少社会という新しい時代の中で
『21世紀・日本再生論』(2015・12)-23 地域主権型道州制」の実現は、大阪から

『21世紀・日本再生論』(2015・12)-28 日本経済の構造は激変した‐Ⅲ

『21世紀・日本再生論』(2015・12)-28

日本経済の構造は激変した‐Ⅲ

株価は日本経済の実態を示していない

 私たちが、『株価』と言っているものは何なのか。それは、日経平均(225種)と言われるものです。つまり、東京証券取引所に1部上場している約1700社の中から、さらにそれぞれの業種において代表的な企業を225社に絞り込んだ企業の株価の平均です。要するに、私たちが『株価』と呼んで、毎日毎日その上がり下がりに注目しているものは、日本企業の“顔”とも言うべき大企業の株価のことです。
 大手企業と中小企業の関係が、昔のように“大手の業績が中小企業に波及する”時代であれば、『株価』は日本経済の現状・今後の動向を見るうえで有益な指標でした。しかし、日本経済の構造が激変し、“大手の業績が中小に波及しなくなった”現状においては、『株価』は日本経済の実態を示していません。株を取り扱っている金融業界の人たちにとっては、要するに商品の価格であるから、重要な指標であることは当然ですが、日本経済の現状を把握するうえにおいてはかつて程の重要性はなくなったと考える方が適切だと思っています。しかし、毎日毎日、「株価」「株価」とマスコミが取り上げ、それを目にしていると、ついついその「株価」に惑わされてしまうのも現実です。私は、「株価」が安い方がいいと言っているのではありません。大手企業の業績が良いことを否定しているわけでもありません。大手企業は、日本経済の“顔”ですから、大手企業も順調であって欲しいと思いますし、「株価」も安いより高いのがいいに決まっています。私が言っているのは、「株価」が上ったことによって、経済の実態がそれだけで改善するのではないという発想を持たなければならないということです。「株価=日本経済」という発想が古いのではないかということです。
 現在、「株価」は世界の投機マネーによって動いています。外国人投資家の動きに大きく左右されるのです。その結果、マネーゲームのように株価は短期間に大きく揺れ動くようになりました。特に、情報通信技術の発達によって1秒間に数え切れない取引が24時間行われています。ボタンひとつで巨額の取引がめまぐるしいスピードで行われているのです。国境の壁は完全になくなり、株価は日本経済の実態によって動くのではなく、世界の動向によって、マネーゲームによって動く、つまり世界の動きがダイレクトに株価に反映するようになっています。
 日本の株価の予測にほぼ間違いない指標があります。それはニューヨークの株価の動きです。つまり、ニューヨークは世界の金融センターになっていますから、日本の株価はニューヨークの株価動向をほぼ90%以上の確率で後追いしています。ニューヨークと東京は時差がありますから、昼と夜が逆転しています。ですから日本時間で言えば、昨晩のニューヨークの証券取引所で株価が上がれば、次の日の東京証券取引所では、程度の差はありますがほぼ間違いなく値上がりします。ニューヨークで下がれば東京は下がります。いろいろな理由が語られますが、結果はごく単純に後追いしているのです。
 また、私は、外国人投資家のウェイトが高まったことによる二つの結果が生まれたと思っています。一つは、「円安は株価を上げる」ことです。それは、円安が輸出企業に為替差益をもたらすからということのみならず、あまり言われてはいないことですが、“外国人投資家は、「ドル」を基準に行動する”からです。私たち日本人であれば、常に「円」を基準に物事を考え行動することと同じなのです。つまり、円安になれば、東京市場において「ドル」で買える株が増えるのです。例えば、1ドルが100円から120円になれば、同じ一ドルを投入しても1.2倍の株が購入できることになります。ですから、円安は東京株式市場において「買い」への圧力を生み出し、株高になりやすいのです。
 二つめは、株による資金調達は、「コストが高い」ということです。外国人投資家は、長期的な資金運用をする人たちを除けば短期的利回りを重視します。そして、利回りの追求・要求には、日本の企業に対してであろうと欧米の企業に対してであろうと同じ利回りを求めるのは当然です。私たちは、株式市場から調達した資金は利息がゼロであると思っていました。しかし、実は違ったのです。かつて、日本国内の大手企業はグループ・系列などで株式の持ち合いをしていました。その時は株式による資金調達の利息は実質的にゼロであったのですが、外国人投資家は高い利回りを要求します。利回りとは利息と同じことだと思います。資金調達コストなのです。その結果、日本企業は外国人投資家を満足させるために高いコストを払っています。従業員への賃金に回す割合を減らしても投資家を満足させなければならないようになってしまいました。その利回りは、銀行から受ける融資よりも高いものになっている場合が多いのではないでしょうか。
 結論を言えば、“外国人投資家は高くつく”ということです。その分従業員への賃金が減り、国内消費にはマイナスになるのです。ですから、銀行がもっと国内企業に融資をしやすくなるような方向に向けて政府は努力しなければならないということになります。そして、融資を受けることができる企業では、株式市場での資金調達を減らしていくことがコスト削減になるということです。私たちは、意識を変え、発想を転換し、“銀行からの融資”をより大きくするように昔に戻ることが新しい方法だと考えることも必要だと思います。


円安は万能ではない

 3年前(2012年)、国内世論は「円安」を待望していました。「円安になれば日本経済は再生する」との大合唱でした。その後、2013年から2014年にかけて、「円安」に大きく動きました。しかし、日本経済は再生したでしょうか。確かに一部においては円安効果で大きなメリットを受けた企業はありますが、「円安が万能薬」ではなかったことは、今回の円安局面で証明されたと思っています。それは日本経済がグローバル化し、生産現場が海外展開していることの必然だと思います。
 かつては、円安になれば輸出が拡大し、国内産業の生産も拡大し、日本経済も発展してきました。輸出主導の経済成長を日本は体現してきたのです。しかし、今回の円安によって輸出の数量は拡大していません。つまり、円安による輸出「数量」拡大の側面はなくなり、円安差益が発生するだけの効果しかもたらさなかったのです。(海外から日本を訪れる観光客が増えるという効果があったことは付言しておきます。)生産現場の海外展開が大きく進展したことによって、これまでは国内で生産していた輸出商品が海外で生産されるようになったからです。
 一方で、円安によって輸入品の日本国内での価格は上昇しました。特に、原材料や原油を中心とするエネルギー源を海外に依存している日本にとって大きなコスト高をもたらしました。特に原材料や原油の得上がりは中小企業を直撃しました。ここ1年は、世界的な原油安によってコスト高は緩和されていますが、原油価格に左右されることは変わりません。中小企業はコスト高を商品価格に転嫁することができずに大きなマイナスを受けたのです。一言で言えば、「円安による為替差益を受ける大企業がプラスを享受し、国内で企業活動をする中小企業がマイナスを背負った」ということです。結果として、大手と中小の経済的格差が拡大することとなりました。
 さらに、ここ3年以上、貿易赤字が続いています。日本は2度にわたる石油ショックを乗り越えて以来、1980年からは一貫して貿易黒字が30年以上続いてきました。その間、貿易黒字の解消は世界中が日本に要求してきたテーマでもあり、日本政府は様々な手段を講じて貿易黒字の解消を目指してきました。しかし、それでも貿易黒字が続いてきたのです。その貿易収支が赤字になってしまっている。そのことは、日本経済の一大変化の結果であると考えなければなりません。単に、東日本大震災で原発事故が発生し、原油の輸入が増えたから(さらに円安もプラスして)という説明だけでは十分ではありません。「原油の輸入が拡大したことによって、3兆円の国富が海外に流出している」と1年前にはよく言われていましたが、2014年の貿易赤字は約10兆円です。であるならば、残りの7兆円はどう説明するのでしょうか。原油輸入の拡大は、貿易赤字の3/10しか説明していないのです。つまりは、グローバル化した日本経済の結果としか考えられないのです。
 そこで一つの結論が導き出されます。「円安にも円高にもプラスとマイナスがあり、為替政策(円安)によって輸出『数量』を拡大するという考え方は成り立たなくなった」ということです。日本においては、為替政策で経済を活性化させる時代は終わったということです。であるならば、為替ディーラーのような金融業界の方々は別にして、為替は経済発展のための手段ではなく、貿易の結果を平準化する本来の機能に立ち戻るべきだということになります。分かりやすく言えば、為替政策の目的とするターゲットは、その時々の経済状況の中で貿易収支がプラスマイナスゼロになる水準ということになります。その水準を目指して誘導すべく努力することが求められるのです。それは本来の変動相場制の姿ではないでしょうか。貿易赤字の時は円高を目指し、貿易黒字の時は円安を目指すということになります。そのことは、これまでとは真逆の方向に向かっていくということになります。それは輸出「数量」が為替相場によって左右されないという成熟化・グローバル化した経済の現状の結果です。為替政策によって、つまり円安によって輸出「数量」が伸びた時代が終わったということを明確に自覚する必要があるのではないでしょうか。

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