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『21世紀・日本再生論』(2015・12)-29 新時代のエネルギー戦略
『21世紀・日本再生論』(2015・12)-29
新時代のエネルギー戦略 ―一家に一台、蓄電池―
電気は、作る(発電する)時代から、貯める(蓄電する)時代に変わりました。
電気を作らなくてもいいということではなく、作られた(発電した)電気を、貯める(蓄電する)ことによって、より効率的な、より安全な、より安い「省エネ・システム」を構築する時代を迎えたのです。これまでは、「発電」を基本にした政策であったので、発電所の建設(水力→火力→原発)がテーマであり、「ベストミックス」が議論されてきました。過去40年を振り返ると、「2度にわたる石油危機」、「地球温暖化対策としてのCo2削減」への対応を通して、省エネ技術では日本は世界のトップランナーになりました。
さらに、「省エネ」は、我が国のみならず、世界の一大潮流です。化石燃料の限界が明らかになり、多くの人口を有する新興国・途上国の経済発展に電力・エネルギーの壁が立ちはだかっています。近代は、「エネルギーをジャブジャブに使ってもいいから経済発展を目指す」という時代でありましたが、これからは、「エネルギーを有効に使い、より少ないエネルギーで発展を目指す」時代なのです。「石油危機」、「CO2削減」は、まさにそのことを現在の人類に啓示しています。
また、「人類の発展は、エネルギー革命とともにあった。」とも考えられます。素手から石器という道具を使い始め、牛や馬といった動物の力を利用するようになり(馬力という単語にそのことが証明されている)、水力の利用、化石燃料を使った動燃機関、原子力の利用にと進んできました。エネルギーを制する者が世界を制すると言ってもいいのです。
そして、我が国は、「3.11原発事故」を経験し、さらに蓄電技術の進歩と相まって、まさに本格的な「省エネ・システム」を構築し、世界をリードする「省エネ国家・日本」を実現する大きなチャンスの扉の前に立っています。常にピンチはチャンスです。この道を邁進することが、多くの犠牲者の方への私たちの責任でもあります。
一方、電力・エネルギーは、1日たりとも途絶えてはならないのです。特に、経済が発展し、成熟段階に至ればなおさらであります。それゆえ、場当たり的な施策ではなく、長期的なビジョンを構築し、計画的に粘り強く実行できる(実行していく)ものでなければならないのです。感情的、感傷的、イデオロギー的な議論に陥ることは避けなければなりません。常に、安定的に、安いコストで、しかも安全に、電力・エネルギーを提供することを目標に進んで行かねばならないのです。
家庭用蓄電池の普及
その第1歩は、「家庭用蓄電池の普及」なのです。これまで、蓄電池は、携帯電話・パソコンなどの情報通信機器の電源として、さらにハイブリッド・カーや電気自動車の電源として普及してきました。この技術を基に、「1家に1台、蓄電池」という社会を作り上げることです。つまり、テレビ、洗濯機、冷蔵庫、エアコン、そしてパソコン、携帯電話(1人に1台)と同じように、「ほとんどの家庭に家庭用蓄電池が備わっている」姿を目指すということであります。
私の幼年期(昭和30年代)に、テレビ、洗濯機、冷蔵庫が世に普及し始めました。当時では高価格であったものが、国民の間に普及することによって、どんどん価格が下がり、今では高級品ではなくなりました。はっきりと覚えていますが、カラーテレビを、我が家で購入した昭和40年代前半には、当時の価格で20万円でした。今では想像できないかもしれません。さらに、最も分かりやすいのは携帯電話である。20数年前に販売されはじめた時には、今から思えば、「高価で低品質」でありました。アッという間に、現在の姿に進歩してきたのです。
このことから考えれば、現在150万円以上する家庭用蓄電池が、広く普及することによって、価格は10万円台になり、品質も向上することは確実なのです。家庭用の機器は、ほとんどの製品が、普及すればするほど値段は安くなり品質は向上する。これは経済の基本法則です。それゆえ、「家庭用」蓄電池と言っているのです。蓄電池の普及に、正面切って反対する人は少なく、発電所の近くへの大型蓄電池の設置も検討されています。しかし、そんな大規模な蓄電池の開発には、安全性も含めて、相当な時間を要すると考えられます。しかも、数量が少ないので、技術の進歩は速くなりません。それゆえ、数量が多い(世界を視野に入れればさらに飛躍的な数になる)家庭用こそがポイントなのです。しかも、蓄電は、「作る側」(発電所)ではなく「使う側」(家庭)で行うことが効率的なのです。
私は、蓄電池メーカーへの視察を通して、家庭用蓄電池の普及が実現可能段階に来ていると確信しています。残された課題は、
〈1〉急速な量産に向けての政策的支援、
〈2〉制度的な高い安全性の確保、
です。さらに付け加えるならば、その後の全体的「省エネ・システム」構想なのです。
〈1〉急速な量産に向けての政策的支援
①.補助金
蓄電池への補助金は、私が「蓄電池推進議員連盟」の会長を務めていた時に、その第1歩を踏み出したと自負してはいますが、その規模においてはまだまだ少ないと思っています。ETCの普及に対して行った補助金が参考になります。つまり、一般の家庭でも購入できる価格まで販売価格を下げ、その差額を補助金で賄うことです。そうすることによって、量産が進み、価格の低下も実現されるのです。
②.現物支給
3.11の被災地や、沖縄県(沖縄電力)、北海道(北海道電力)、原発立地県などに対
し、政府が蓄電池を買い上げ、現物支給することです。そのことによって、大量生産が始まり、量産効果によって価格の低下が実現されます。つまり、政府によって「呼び水」を提供するのです。「蓄電池版ニューディール政策」です。
〈2〉制度的な高い安全性の確保
蓄電池の隠れた課題は、その安全性です。リチウムイオン電池によって蓄電池は作られるが、その安全性は不可欠の要素です。携帯電話のような小さな製品であれば何とかなりますが、「1家に1台、蓄電池」の時代になれば、今の蓄電池では大きな不安が残ります。しかも、海外メーカーにおいてはなおさらです。
私は、日本のメーカーは、十分に安全性を確保する技術を開発していると考えています。そのトップランナーが持つ基準まで、安全性の基準を上げることが必要であると思っています。そのことによって、日本企業が、その技術力を活かし、世界を先導し行けるのです。
新エネルギー戦略
ここで、蓄電池の普及がもたらす効果を考えたいと思います。それは、大きくは
①電力のピーク・カットが実現される、
②再生可能エネルギーの普及が進む、
ということです。
①電力のピーク・カットの実現
個々の電力需要者(家庭、企業など)の需要曲線は、それぞれ異なるとはいえ、波状です。ゆえに、「波の低い所で蓄電し、ピーク時に蓄電した電力を使う」ことによって、需要曲線は波状から一定の水準となります。一般的な家庭では、夜間の寝ている時に蓄電し、昼間にそれ使う。結果として、電力供給量は、うまくいけば2/3まで下げることができます。まさに、電力の効率的活用なのです。
②再生可能エネルギーの普及
再生可能エネルギーの最大の問題点は、不安定ということです。安定が求められる電力において、不安定なものが主軸になることはありえません。その不安定が蓄電池の普及によって解消されるのです。特に、現在、さかんに唱えられているソーラー・システムも、巨大ソーラーではなく、家庭、事業所ごとのソーラー・システムであるべきであると思っています。そして、普及が進めば、価格の低下も見込まれます。家電製品になぞらえて言えば、テレビが普及していたからビデオが普及したのであって、テレビが無ければビデオは用をなさないのです。そして、今では、テレビとビデオはほとんど一体化しています。そのように、蓄電池が普及すれば、ソーラーも普及するのです。その逆ではありません。順序が重要なのです。
さらに、「家庭用蓄電池の普及」によって、ドミノ倒しのように、エネルギー政策の可能
性が広がっていきます。
●地方における電力の地産地消
日本の国土を眺めてみると、地方には、数1000軒単位の集落が多い。そういった地域で、家庭用蓄電システムがインフラとして整備されれば、太陽光・風力・地熱・小水力発電なども進んでいき、「電力の地産地消」が可能となります。そして、地域活性化につながっていく。緊急的な電力供給は、電力会社が行うようにすればよいのです。
一方、東京・大阪のような大都市部には、電力会社が電力を供給することが求められます。おのずと、現在の9電力体制の見直しが不可避となります。60年前に作られたシステムが、これほどの時代の変化の中で有効に機能すると考えることに無理があるのではないでしょうか。
●日本の「省エネ」技術・商品の海外展開
「省エネ」は、我が国のみならず、世界の課題である。その課題解決に資することは、まさに世界を制することにつながります。そして、日本の「省エネ」商品は、海外でも必要なものであることは間違いないのです。かつて、日本の家電製品が世界中で受け入れられたように、日本の家庭用蓄電池は、世界にその販路を拡大していけるのではないでしょうか。日本の、大きな成長戦略です。
蓄電システムの展開は、冒頭に述べたように、時代の要請です。過去の発想を断ち切り、行政・電力供給者を含め、全ての関係者が参画することによって、「安全」に、「安定的」に、「安価」な電力を提供するという目標を達成できるのです。
さらに、従来の延長線上での「発電」体制の整備も有効な施策となります。エネルギー政策の、新しいベスト・ミックスです。
○水力発電の活用
新たなダムを作ることなく、既存のダムを5mかさ上げすれば、そして、それを水力発電に利用すれば、原発9基分の発電が可能になるとの試算もあります。しかも、日本の気候からすれば、初期投資を除けば、水力は最も安価、燃料代はゼロなのです。しかし、これは、国土交通省の管轄であり、省庁横断の取り組みが求められるのです。
○高速道路のクリーンエネルギーへの活用
全国に広がっている高速道路は、災害時においてもその防災効果が認められています。その高速道路の側面に太陽光パネルを張り付け、安定的なクリーンエネルギーの供給を行うことは可能です。これも、国土交通省の管轄であり、かさねて省庁横断の取り組みが求められるのです。
○LNGの活用
天然ガスによる発電は、地球環境に負担が少ないと言われています。アメリカのシェール・ガスの生産によって、間もなく安いLNGの輸入が始まります。LNGの活用も不可欠です。
○火力発電の技術革新
日本の石炭火力発電技術を含めた高い技術力を、さらに高めるとともに、世界の国々にその技術を提供していく。
○原子力発電の安全性の確保
原発の安全性の確立は絶対条件です。これまで述べてきた「新時代エネルギー戦略」が実現した段階で、原発の必要性の最終判断を行うべきであると思っています。
エネルギー省の創設
最後に、「エネルギー省」の創設を提案します。
わが国では、電力・エネルギーに対する国家の体制が多くの省庁に分かれ、タコ足状態になっています。それでいいのでしょうか。エネルギー問題は、国家において最重要な課題です。特に、わが国日本にとっては、なおさらではないでしょうか。
他国をまねるわけではないですが、アメリカを含め、多くの国は、エネルギー省を設けています。現状のままであれば、エネルギー政策は、経済産業省、文部科学省、環境省、国土交通省、外務省、総務省、内閣府などにまたがって推進されるので、総合的・一体的な施策の実行は困難なのです。よって、「エネルギー省」を創設し、エネルギー戦略の構築、施策の実行を一元的に強力に進めることが必要不可欠なのです。